AI医療AI特講KARUIZAWA RADIO UNIVERSITY
医療AI特講 中村祐輔先生 軽井沢ラジオ大学
SPECIAL RADIO PROGRAM

医療AI特講

MEDICAL AI · SPECIAL LECTURES

ゲノム医療を切り拓き、医療AIの社会実装を牽引し続ける、中村祐輔先生。
診断、治療、予防、創薬、そして医療を支える人々の仕事は、AIによってどう変わるのか。

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世界最高峰の知見に触れ、これからの医療AIを考える特別講義すべてのエピソード

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新しい順 · 全5回
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第5回
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長
中村祐輔先生
04

第4回
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長
中村祐輔先生
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第3回
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第2回
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長
中村祐輔先生
01

第1回
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長
中村祐輔先生
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第1回 · 2026年8月31日(月)

「医療AI特講」開講!|医師の診断ミスをなくすことで生まれる経済効果

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村祐輔先生

生成AIが生まれて、最も大きな影響を受ける分野はどこかと問われたら、私は迷わず医療だと答えます。使い道はいろいろありますが、私が特に重要だと考えているのは、医療の質を高めるためにAIを使うということです。

医療の質をどう評価するかは難しい問題ですが、分かりやすい例を挙げましょう。特定の病気は、どうしても診断が遅れたり、誤診されてしまうことがあります。日本国内には正確なデータがありませんが、アメリカでは診断の遅れやミスによって年間およそ80万人が亡くなったり、後遺症を負ったりしていると言われています。それによって失われる医療費は15兆円にのぼります。

人間には、よく見る病気には思い込みが働き、専門外の病気はなかなか病名が思い浮かばないという傾向があります。ここにAIの優れた点があります。今では症状を入力すると、その病気である確率が何パーセントという形で示され、専門外の病気であっても可能性のヒントを与えてくれるのです。診断ミスや遅れの最大の原因は、そもそも病名が思い浮かばないことですから、AIがヒントを出し、それに沿って絞り込んでいく診断方法があれば、間違いは大きく減らせます。特に血管系の病気は、痛みだけでは血管が詰まったとは気づきにくいものですが、ヒントがあれば調べてみようという発想が生まれ、速やかな処置で命を救うことにもつながります。

もう一つの例が処方ミスです。薬の出し間違いは、医師が名前を書き間違えたり、薬剤師が忙しさの中で違う薬を渡してしまったり、看護師が配薬を誤ったりと、さまざまな職種が関わる中で起きています。アメリカではこれによって3兆円ほどが失われていると言われ、日本でも診断ミスと処方ミスを防ぐだけで、2兆円から3兆円ほどの医療費節減につながるというデータもあります。

まだ電子カルテとAIは十分にリンクしていませんが、これはすぐに実現していくはずです。離島で一人診療にあたっているときや、助けの手が届かない場所でも、AIが診断の遅れやミスを防いでくれる。そうした形で、患者さんの命を直接守れるようになる日が近づいています。私たちはこの可能性を、真剣に考えていく必要があると思っています。

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第2回 · 2026年9月1日(火)

AIが治療薬を選ぶ日|個々の遺伝子に対応する最適医療への大きな一歩

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村祐輔先生

人間は必ずミスをします。これは避けられない事実です。だからこそ、そのミスをAIが見つけてくれることには大きな意味があると思うのです。

たとえば画像検査で、誰かが「おかしいので注意してください」と記録していたのに、それが見過ごされて半年後、一年後に発見される、ということが実際にあります。もし誰もチェックしていない状態であれば、電子カルテ上に「早く確認してください」というアラートを出すだけで、見落としを防ぐことができます。

本来あってはならないことですが、輸血の際に血液型を間違えてしまうということも起こり得ます。私自身、救急病棟に勤めていた経験がありますが、看護師さんが輸血の管をつなぐ瞬間、名札に書かれた血液型にはっと気づくことがあります。もし気づかなければ、そのまま進んでしまう。だからこそ、ICチップのタグを血液側と患者側の両方につけて、食い違いがあれば警報が鳴る仕組みがあれば、瞬時にミスを取り返すことができます。ヒューマンエラーを回避する仕組みづくりは、非常に重要だと感じています。

同じようなタグの技術は、ミスの防止だけでなく、患者さんの負担軽減にも役立ちます。あと何分待てばよいかが分かれば、待合室で緊張しながら座り続ける必要はなくなります。病院によっては九十分もの遅れが出ることがありますが、待たされること自体が大きなストレスです。それを軽減してあげることも、医療の質を高めるという意味では大切な視点だと思います。

もう一つ重要なのが、ゲノム情報の活用です。今や遺伝子の異常を解釈し、どんな薬が適しているかを導き出すことは、AIを使えば簡単にできる時代になりました。しかし日本では、遺伝子の結果が出たあと専門家が集まる会議を三週間後に開く、というような仕組みが残っており、患者さんはその間ずっと待たされてしまいます。病状をよく知る医師がAIのヒントを得て即座に判断できれば、この時間は大幅に短縮できるはずです。

こうして見ていくと、AIの活用によって医療の質がどれほど高まるかがお分かりいただけると思います。ただ、日本の本質的な課題は、AIやデジタルを支えるインフラが整っていないことです。病院の六、七割が赤字という状況の中で、各病院にデジタル化の負担を強いるのは酷というものです。成長戦略として巨額の予算が語られる一方で、今、何をすれば最も効率的に医療の質を高められるのかを見極め、国がインフラを整備することこそが、私は最も大切だと考えています。

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第3回 · 2026年9月2日(水)

年間7700万時間の節約|血圧・体温記録を自動化し、待遇を上げよ

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村祐輔先生

働き方改革によって、医療現場では働く時間を短くすることが求められています。しかし仕事の量が減るわけではありません。同じ量の仕事を短い時間でこなさなければならないのですから、医療従事者はますます忙しなく働き続けることになります。すでに過度な負担によって日本の医療は支えられているという状況の中で、その負担をできる限りAIに置き換えることが必要になってきています。

特に単純な記録作業は、人間がやらなくてもAIに任せられる部分です。たとえば看護記録がそうです。血圧や体温を測ってメモを取り、ナースステーションに戻ってから入力するという作業がありますが、今ではその場でピンマイクに話しかければ、看護記録として残るようになってきています。1日に何度も測定に回る手間を考えると、これを全国の病院で自動化した場合、年間で7700万時間ものトータル削減が見込めるという試算もあります。その分の超過勤務代の一部を看護師さんの給料として還元し、残りを病院の運営に充てることができれば、病院も看護師さんも仕事が楽になるという形が実現できるはずです。

医師についても同じことが言えます。診察室に入ると、お医者さんはモニターとキーボードを見ながら横目で話しかけ、患者と目を合わせて話す時間はわずかです。話を聞きながら記録のためにタイピングをしているからです。ここに生成AIを活用し、患者と医師の会話を自動的に記録できるようになれば、記録はきちんとした形で残り、言った言わないといった無駄な論争もなくなります。記録に費やす時間を減らすことは、そのまま医療現場の負担軽減につながります。

事務の面でも同様の変化が起きています。入院の説明には時間がかかりますが、AIが基本的な説明を行い、患者がAIに質問して、それでも分からない部分だけを人間に尋ねる仕組みにすれば、大幅な時間短縮が可能です。家族歴や病歴の確認も、家であらかじめアプリに答えを入力しておき、看護師さんが電子カルテを見ながら最終チェックをするだけで済むようになれば、これまで15分かかっていた記録取りが3分程度になり、入力時間も大きく減っています。

機械をうまく使い、記録作業の負担を軽減していくことは、医療現場で求められる大きな課題のひとつです。これからもさまざまな形で生成AIの活用が進み、働く人も患者も、みんながハッピーになれるような工夫として広がっていくと思います。

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第4回 · 2026年9月3日(木)

病床管理も看護配置もAI任せ|医療現場に眠る膨大なコストの正体

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村祐輔先生

医療とAIというと、診断や治療の話ばかりが注目されがちですが、実は病院の中には、もっと地味で、けれど深刻な無駄がたくさん潜んでいます。私が特に気にかけているのは、部屋や人、薬といった資源の使い方です。

例えば手術室です。手術は予定通りに終わるとは限りません。早く終わることもあれば、長引くこともある。そのたびに次の手術の道具を揃え、部屋をやりくりするのは大変な作業です。ここにAIが入れば、必要な道具を自動で準備し、空いた手術室に別の患者さんを回すこともできる。夜遅くまで手術室の順番を待つ患者さんの負担も減らせます。ベッドの管理も同じです。退院予定だった人が急に退院しなくなる、そんな時のやりくりもAIが担えます。コロナ禍では看護師さんが発熱で足りなくなり、病棟間の人員調整に苦労した現場を何度も耳にしました。あれも本来はAIが状況を把握し、経験のあるスタッフを適切に補填する形で解決できることなのです。

そしてもう一つ、私が強く問題だと感じているのが薬の廃棄です。ある大手IT企業の話では、世界中で年間五兆円ほどの薬が有効期限切れで捨てられているそうです。病院の棚の奥で使われないまま期限を迎えてしまう薬も少なくありません。日本国内でも五百億から千億円規模の無駄があると言われており、コロナワクチンの大量廃棄はその象徴だったと思います。薬にタグをつけて管理すれば、期限が迫っている薬を必要としている別の病院へ回すことができる。地域の病院同士がデータベースでつながれば、こうした薬品ロスはかなり防げるはずです。

さらに気になるのは、処方された薬を患者さんが飲んでいないという問題です。友人が母親を亡くした際、遺品整理をしていたら引き出しいっぱいに薬が残っていたそうです。飲み忘れなのか、もらったものを断れなかったのか分かりませんが、こうした無駄も想像以上に多いのではないでしょうか。服薬状況をモニタリングする仕組みがあれば、これも解消できるはずです。

薬の廃棄は結局、病院の経営を圧迫し、医療費全体を押し上げます。高齢化が進む中で医療費をどう抑えるかは、国にとっても切実な課題です。質の高い医療を維持しながら無駄を減らす。その両立を支えるのが、AIによる地道な効率化なのだと私は考えています。

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第5回 · 2026年9月4日(金)

災害時に医療を止めないために|患者が自分の情報を持ち歩く時代へ

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村祐輔先生

2011年の東日本大震災の当時、私は内閣官房参与として内閣医療イノベーション推進室に関わっていました。あの大地震で何が問題になったか。津波によって電子カルテも紙カルテもすべて失われてしまったのです。透析の患者さんを東海岸から西海岸へ搬送するお手伝いをしていましたが、結局その方についての情報が何もない。どの薬を使うと問題が起きるのかすら分からない状態でした。

いつどこで大震災が起きるか分からず、富士山がいつ噴火するかも分からない今、何かが起きたときに診療を継続することは極めて重要です。しかし情報がなければ、継続もなにもありません。だからこそ医療情報の整備が必要だと、15年前に内閣へ提言を出しました。ところがこの15年間、電子カルテの統一化と言われ続けながら、ほとんど何も進んでいません。統一化できれば大きなデータを集められるはずなのに、それすら実現していないのです。出張や旅行の先で急病になっても、自分の情報が何もないまま診療を受けることになる。本来は、いつでもどこでも誰でも診療情報を見られるようにしておけば、過去の病歴に基づいてすぐに適切な治療を始められるはずです。

その間にも、大阪の病院がランサムウェアの被害に遭い、三か月間診療できなくなるという事態が実際に起きました。富士山噴火や南海トラフ地震が起これば、関東や東海、四国、和歌山沿岸で診療情報の喪失は避けられません。防災対策としての医療情報確保は喫緊の課題なのに、手が付けられていないのが現実です。

今、大阪の国際がんセンターで取り組んでいるのは、電子カルテ情報を国際標準の形でクラウドに移すことです。電子カルテ会社によって接続が難しいと言われてきましたが、プログラムを組めば実現でき、二十年分のデータを連続して残すことができています。何かあったときにクラウドから簡易カルテを呼び戻せれば、診療の継続につながります。

思い返せば、二十年ほど前にアメリカの保健福祉大臣と会った際、彼は自分の病歴をすべて記録したCDカードを持ち、どこで倒れても診療を継続できると自慢げに語っていました。当時は日本では難しいと感じていましたが、これだけデジタル技術が進んだ今、検査結果をスマホに移すことは技術的に難しくないはずです。診療情報に常にアクセスできる環境を作ること、それが今、私たちに課された大きな仕事だと思っています。