AI医療AI特講KARUIZAWA RADIO UNIVERSITY
医療AI特講 中村祐輔先生 軽井沢ラジオ大学
SPECIAL RADIO PROGRAM

医療AI特講

MEDICAL AI · SPECIAL LECTURES

ゲノム医療を切り拓き、医療AIの社会実装を牽引し続ける、中村祐輔先生。
診断、治療、予防、創薬、そして医療を支える人々の仕事は、AIによってどう変わるのか。

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世界最高峰の知見に触れ、これからの医療AIを考える特別講義すべてのエピソード

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第10回
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長
中村祐輔先生
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第9回
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長
中村祐輔先生
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第2回
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第1回
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長
中村祐輔先生
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第1回 · 2026年8月31日(月)

「医療AI特講」開講!|医師の診断ミスをなくすことで生まれる経済効果

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村祐輔先生

生成AIが生まれて、最も大きな影響を受ける分野はどこかと問われたら、私は迷わず医療だと答えます。使い道はいろいろありますが、私が特に重要だと考えているのは、医療の質を高めるためにAIを使うということです。

医療の質をどう評価するかは難しい問題ですが、分かりやすい例を挙げましょう。特定の病気は、どうしても診断が遅れたり、誤診されてしまうことがあります。日本国内には正確なデータがありませんが、アメリカでは診断の遅れやミスによって年間およそ80万人が亡くなったり、後遺症を負ったりしていると言われています。それによって失われる医療費は15兆円にのぼります。

人間には、よく見る病気には思い込みが働き、専門外の病気はなかなか病名が思い浮かばないという傾向があります。ここにAIの優れた点があります。今では症状を入力すると、その病気である確率が何パーセントという形で示され、専門外の病気であっても可能性のヒントを与えてくれるのです。診断ミスや遅れの最大の原因は、そもそも病名が思い浮かばないことですから、AIがヒントを出し、それに沿って絞り込んでいく診断方法があれば、間違いは大きく減らせます。特に血管系の病気は、痛みだけでは血管が詰まったとは気づきにくいものですが、ヒントがあれば調べてみようという発想が生まれ、速やかな処置で命を救うことにもつながります。

もう一つの例が処方ミスです。薬の出し間違いは、医師が名前を書き間違えたり、薬剤師が忙しさの中で違う薬を渡してしまったり、看護師が配薬を誤ったりと、さまざまな職種が関わる中で起きています。アメリカではこれによって3兆円ほどが失われていると言われ、日本でも診断ミスと処方ミスを防ぐだけで、2兆円から3兆円ほどの医療費節減につながるというデータもあります。

まだ電子カルテとAIは十分にリンクしていませんが、これはすぐに実現していくはずです。離島で一人診療にあたっているときや、助けの手が届かない場所でも、AIが診断の遅れやミスを防いでくれる。そうした形で、患者さんの命を直接守れるようになる日が近づいています。私たちはこの可能性を、真剣に考えていく必要があると思っています。

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第2回 · 2026年9月1日(火)

AIが治療薬を選ぶ日|個々の遺伝子に対応する最適医療への大きな一歩

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村祐輔先生

人間は必ずミスをします。これは避けられない事実です。だからこそ、そのミスをAIが見つけてくれることには大きな意味があると思うのです。

たとえば画像検査で、誰かが「おかしいので注意してください」と記録していたのに、それが見過ごされて半年後、一年後に発見される、ということが実際にあります。もし誰もチェックしていない状態であれば、電子カルテ上に「早く確認してください」というアラートを出すだけで、見落としを防ぐことができます。

本来あってはならないことですが、輸血の際に血液型を間違えてしまうということも起こり得ます。私自身、救急病棟に勤めていた経験がありますが、看護師さんが輸血の管をつなぐ瞬間、名札に書かれた血液型にはっと気づくことがあります。もし気づかなければ、そのまま進んでしまう。だからこそ、ICチップのタグを血液側と患者側の両方につけて、食い違いがあれば警報が鳴る仕組みがあれば、瞬時にミスを取り返すことができます。ヒューマンエラーを回避する仕組みづくりは、非常に重要だと感じています。

同じようなタグの技術は、ミスの防止だけでなく、患者さんの負担軽減にも役立ちます。あと何分待てばよいかが分かれば、待合室で緊張しながら座り続ける必要はなくなります。病院によっては九十分もの遅れが出ることがありますが、待たされること自体が大きなストレスです。それを軽減してあげることも、医療の質を高めるという意味では大切な視点だと思います。

もう一つ重要なのが、ゲノム情報の活用です。今や遺伝子の異常を解釈し、どんな薬が適しているかを導き出すことは、AIを使えば簡単にできる時代になりました。しかし日本では、遺伝子の結果が出たあと専門家が集まる会議を三週間後に開く、というような仕組みが残っており、患者さんはその間ずっと待たされてしまいます。病状をよく知る医師がAIのヒントを得て即座に判断できれば、この時間は大幅に短縮できるはずです。

こうして見ていくと、AIの活用によって医療の質がどれほど高まるかがお分かりいただけると思います。ただ、日本の本質的な課題は、AIやデジタルを支えるインフラが整っていないことです。病院の六、七割が赤字という状況の中で、各病院にデジタル化の負担を強いるのは酷というものです。成長戦略として巨額の予算が語られる一方で、今、何をすれば最も効率的に医療の質を高められるのかを見極め、国がインフラを整備することこそが、私は最も大切だと考えています。

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第3回 · 2026年9月2日(水)

年間7700万時間の節約|血圧・体温記録を自動化し、待遇を上げよ

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村祐輔先生

働き方改革によって、医療現場では働く時間を短くすることが求められています。しかし仕事の量が減るわけではありません。同じ量の仕事を短い時間でこなさなければならないのですから、医療従事者はますます忙しなく働き続けることになります。すでに過度な負担によって日本の医療は支えられているという状況の中で、その負担をできる限りAIに置き換えることが必要になってきています。

特に単純な記録作業は、人間がやらなくてもAIに任せられる部分です。たとえば看護記録がそうです。血圧や体温を測ってメモを取り、ナースステーションに戻ってから入力するという作業がありますが、今ではその場でピンマイクに話しかければ、看護記録として残るようになってきています。1日に何度も測定に回る手間を考えると、これを全国の病院で自動化した場合、年間で7700万時間ものトータル削減が見込めるという試算もあります。その分の超過勤務代の一部を看護師さんの給料として還元し、残りを病院の運営に充てることができれば、病院も看護師さんも仕事が楽になるという形が実現できるはずです。

医師についても同じことが言えます。診察室に入ると、お医者さんはモニターとキーボードを見ながら横目で話しかけ、患者と目を合わせて話す時間はわずかです。話を聞きながら記録のためにタイピングをしているからです。ここに生成AIを活用し、患者と医師の会話を自動的に記録できるようになれば、記録はきちんとした形で残り、言った言わないといった無駄な論争もなくなります。記録に費やす時間を減らすことは、そのまま医療現場の負担軽減につながります。

事務の面でも同様の変化が起きています。入院の説明には時間がかかりますが、AIが基本的な説明を行い、患者がAIに質問して、それでも分からない部分だけを人間に尋ねる仕組みにすれば、大幅な時間短縮が可能です。家族歴や病歴の確認も、家であらかじめアプリに答えを入力しておき、看護師さんが電子カルテを見ながら最終チェックをするだけで済むようになれば、これまで15分かかっていた記録取りが3分程度になり、入力時間も大きく減っています。

機械をうまく使い、記録作業の負担を軽減していくことは、医療現場で求められる大きな課題のひとつです。これからもさまざまな形で生成AIの活用が進み、働く人も患者も、みんながハッピーになれるような工夫として広がっていくと思います。

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第4回 · 2026年9月3日(木)

病床管理も看護配置もAI任せ|医療現場に眠る膨大なコストの正体

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村祐輔先生

医療とAIというと、診断や治療の話ばかりが注目されがちですが、実は病院の中には、もっと地味で、けれど深刻な無駄がたくさん潜んでいます。私が特に気にかけているのは、部屋や人、薬といった資源の使い方です。

例えば手術室です。手術は予定通りに終わるとは限りません。早く終わることもあれば、長引くこともある。そのたびに次の手術の道具を揃え、部屋をやりくりするのは大変な作業です。ここにAIが入れば、必要な道具を自動で準備し、空いた手術室に別の患者さんを回すこともできる。夜遅くまで手術室の順番を待つ患者さんの負担も減らせます。ベッドの管理も同じです。退院予定だった人が急に退院しなくなる、そんな時のやりくりもAIが担えます。コロナ禍では看護師さんが発熱で足りなくなり、病棟間の人員調整に苦労した現場を何度も耳にしました。あれも本来はAIが状況を把握し、経験のあるスタッフを適切に補填する形で解決できることなのです。

そしてもう一つ、私が強く問題だと感じているのが薬の廃棄です。ある大手IT企業の話では、世界中で年間五兆円ほどの薬が有効期限切れで捨てられているそうです。病院の棚の奥で使われないまま期限を迎えてしまう薬も少なくありません。日本国内でも五百億から千億円規模の無駄があると言われており、コロナワクチンの大量廃棄はその象徴だったと思います。薬にタグをつけて管理すれば、期限が迫っている薬を必要としている別の病院へ回すことができる。地域の病院同士がデータベースでつながれば、こうした薬品ロスはかなり防げるはずです。

さらに気になるのは、処方された薬を患者さんが飲んでいないという問題です。友人が母親を亡くした際、遺品整理をしていたら引き出しいっぱいに薬が残っていたそうです。飲み忘れなのか、もらったものを断れなかったのか分かりませんが、こうした無駄も想像以上に多いのではないでしょうか。服薬状況をモニタリングする仕組みがあれば、これも解消できるはずです。

薬の廃棄は結局、病院の経営を圧迫し、医療費全体を押し上げます。高齢化が進む中で医療費をどう抑えるかは、国にとっても切実な課題です。質の高い医療を維持しながら無駄を減らす。その両立を支えるのが、AIによる地道な効率化なのだと私は考えています。

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第5回 · 2026年9月4日(金)

災害時に医療を止めないために|患者が自分の情報を持ち歩く時代へ

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村祐輔先生

2011年の東日本大震災の当時、私は内閣官房参与として内閣医療イノベーション推進室に関わっていました。あの大地震で何が問題になったか。津波によって電子カルテも紙カルテもすべて失われてしまったのです。透析の患者さんを東海岸から西海岸へ搬送するお手伝いをしていましたが、結局その方についての情報が何もない。どの薬を使うと問題が起きるのかすら分からない状態でした。

いつどこで大震災が起きるか分からず、富士山がいつ噴火するかも分からない今、何かが起きたときに診療を継続することは極めて重要です。しかし情報がなければ、継続もなにもありません。だからこそ医療情報の整備が必要だと、15年前に内閣へ提言を出しました。ところがこの15年間、電子カルテの統一化と言われ続けながら、ほとんど何も進んでいません。統一化できれば大きなデータを集められるはずなのに、それすら実現していないのです。出張や旅行の先で急病になっても、自分の情報が何もないまま診療を受けることになる。本来は、いつでもどこでも誰でも診療情報を見られるようにしておけば、過去の病歴に基づいてすぐに適切な治療を始められるはずです。

その間にも、大阪の病院がランサムウェアの被害に遭い、三か月間診療できなくなるという事態が実際に起きました。富士山噴火や南海トラフ地震が起これば、関東や東海、四国、和歌山沿岸で診療情報の喪失は避けられません。防災対策としての医療情報確保は喫緊の課題なのに、手が付けられていないのが現実です。

今、大阪の国際がんセンターで取り組んでいるのは、電子カルテ情報を国際標準の形でクラウドに移すことです。電子カルテ会社によって接続が難しいと言われてきましたが、プログラムを組めば実現でき、二十年分のデータを連続して残すことができています。何かあったときにクラウドから簡易カルテを呼び戻せれば、診療の継続につながります。

思い返せば、二十年ほど前にアメリカの保健福祉大臣と会った際、彼は自分の病歴をすべて記録したCDカードを持ち、どこで倒れても診療を継続できると自慢げに語っていました。当時は日本では難しいと感じていましたが、これだけデジタル技術が進んだ今、検査結果をスマホに移すことは技術的に難しくないはずです。診療情報に常にアクセスできる環境を作ること、それが今、私たちに課された大きな仕事だと思っています。

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第6回 · 2026年9月14日(月)

日本の医療データが、AIを育てる | 均一な医療と大規模データベース構築の必要性

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村 祐輔さま / なかむら・ゆうすけ

生成AIは、情報の質が高く、量が多いほど賢くなります。AIの基盤となる開発技術で日本が米国や中国に勝つことは、容易ではないと私は考えています。では、日本はどこに可能性を見いだすべきでしょうか。その一つが医療です。

私は米国で通算11年間暮らしましたが、米国では所得によって受けられる医療の質に大きな格差があります。一方、日本には保険制度があり、全国どこでもかなり均質な医療を受けられます。その診療情報を適切に集めれば、質の高い大規模な医療データベースを構築できるはずです。これを生成AIに活用することで、質の高い医療AIを生み出し、医療の分野で日本を発展させるという発想が必要です。

大規模なデータベースがあれば、病名の候補を診断のヒントとして示すだけでなく、どの薬を、どの段階で使うべきかを考える助けにもなります。同じ抗がん剤でも、最初に使う場合と三番目に使う場合とでは、治療効果が異なります。現在はある程度決まった順番で使われていますが、データを蓄積して分析すれば、この薬はもっと早い段階で使ったほうがよい、といったことも見えてくるでしょう。

免疫療法の一種である免疫チェックポイント阻害剤は、その例です。当初は治療の後半でなければ使えませんでした。しかし、抗がん剤を重ねて患者さんの免疫力が弱まってから免疫を高めようとするより、免疫が正常に保たれている早い段階で使うほうが、科学的には合理的です。実際、次第に早い段階で使われるようになっています。

大腸がんでも、遺伝子に傷がつきやすいことによって起こる特定のタイプでは、薬によってがんが消え、手術をしなくてもよい可能性を示すデータが報告されています。がんの種類や治療の組み合わせによっては、手術をせずに治せる時代になりつつあります。

がんは総じて、塊が小さいほど治る確率が高くなります。早く見つけることに加え、どの薬を、どの段階で使うかが極めて重要です。しかし現在、日本国内には、その判断に必要な情報が十分に集約されていません。大阪国際がんセンターで進めているような取り組みをほかの病院にも広げ、さらに大きなデータベースにできれば、患者さんごとに何が最適なのかという答えを得られるようになると思います。

国内の労働人口が減るなか、病気を早く見つけ、早く治すことは、働く人口を確保することにもつながります。医療データを社会全体の資産として集め、どのような形で患者さんに還元するのか。いまこそ、その仕組みを大きな視点で考える時期に来ています。

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第7回 · 2026年9月15日(火)

待ち時間も、医療の一部 | 患者の不安を減らす、AIによる病院体験の変化

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村 祐輔さま / なかむら・ゆうすけ

今回は視点を少し変えて、患者さんにとって優しい病院、優しい医療機関をつくるために、AIをどのように活用できるかを考えたいと思います。

病院での待ち時間は、患者さんにとって大きなストレスです。診察室の運用を工夫すれば待ち時間そのものを短くできる可能性がありますが、それだけでなく、あとどれくらい待つのかをリアルタイムで伝えることも大切です。いつ呼ばれるのかわからない状態は、精神的な負担になります。待ち時間の見通しを示す仕組みも、患者さんに寄り添う医療の一部だと考えています。

大阪国際がんセンターでは、生成AIを使い、患者さんの病気や治療法、選択肢について説明する取り組みが始まっています。忙しそうな医師を前にすると、患者さんはわからないことがあっても質問しにくく、もう一度説明してほしいとも言い出しにくいものです。生成AIによる説明を自宅でも聞ければ、理解しにくい部分を何度でも確かめられます。そのうえで残った疑問を医師に質問し、患者さん自身が納得して治療に臨むことができます。AIは医師との対話に置き換わるものではなく、患者さんの理解を深め、その対話を支える役割を担えるのです。

病院の外で得られる情報も、これからの医療を変えていきます。今では心拍数や酸素飽和度をスマートウォッチで測ることができ、血糖も簡単にモニタリングできます。例えば心房細動のように、異変を感じて病院へ行っても、その時点では何も起きていない場合があります。しかし、日常的に計測した情報があれば、不整脈を捉えて診療に活かせる可能性があります。受診時の一時的な状態だけではなく、24時間を通じて得られる情報から、その人の健康を考えられるようになってきました。

抗がん剤治療でも同じです。治療は外来で受けることが増えていますが、次の受診まで患者さんがどのように過ごしたのか、医療者には十分に伝わらないことがあります。治療の翌日からつらくて動けなかったとしても、次の治療時には回復しているかもしれません。患者さんに日々の体調を入力してもらい、その情報を電子カルテにつなげれば、次の受診時に経過を把握できます。危険な兆候があれば電子カルテ上に警告を出し、来院を促すことも可能になります。

患者さんを診るのは、病院に来たときだけではありません。疑問を感じたときに生成AIへ質問でき、家庭での状態も診療につなげられれば、AIは24時間患者さんに寄り添う存在になり得ます。病気を治療するだけでなく、患者さんの不安を減らし、家庭での生活の質を高めることまで含めて医療を考える。そのためのAI活用が、すでに始まりつつあります。

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第8回 · 2026年9月16日(水)

夜の不安に、AIが応える | 本音を話せる相手としての存在

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村 祐輔さま / なかむら・ゆうすけ

患者さんに優しい病院や医療機関をつくるには、患者さんが抱える不安にどう向き合うかを考える必要があります。その一つが、生成AIを活用した相談窓口です。すべての電話相談を人が受け続けるのは容易ではありませんが、ある程度まで生成AIに任せることは可能になってきています。

例えば妊婦さんは、日々さまざまな不安を抱えています。世田谷にある医療機関では、妊婦さんからの相談を受け、AIが内容を判断する取り組みが行われています。心配のない場合には安心を伝え、判断が難しい場合には受診を勧め、緊急性が高い場合にはすぐに来院するよう促します。夜間は病院に電話をかけにくいものですが、いつでも相談でき、一定の答えが返ってくる窓口があれば、安心して過ごす助けになります。本当に緊急を要する状態を受診につなげられることも重要です。

AIホスピタルと聞くと、多くの人は冷たい医療を想像します。ただでさえ医療者と話す機会が少ないのに、そこへAIが入れば、ますます人間が遠ざかるのではないかと感じるのでしょう。しかし、AIだからこそ話せることもあります。例えば、うつ病の患者さんの中には、人間の医師よりAIに対して本音を打ち明ける人がいます。医師には告げにくい思いをAIが受け止め、その内容を診療に生かせる可能性があるのです。

現在の診察室では、医師が画面を見ながら診療し、患者さんと目を合わせて話す時間を十分に取れないことがあります。看護師も仕事に追われています。かつては看護師と患者さんが触れ合い、病気だけではなく、その人を見ることが大切にされていました。病院は病気だけを見る場所ではありません。病人を見て、その心までケアして初めて医療だと私は考えています。

悪い知らせを伝えるときも、事実を告げれば終わりではありません。相手がどのような表情をし、どのような思いで受け止めているのかを察し、その心を支えることまでが医療です。そのためにも、記録などの業務をAIに任せ、人が患者さんと向き合う時間を取り戻す必要があります。

AIの最大の利点は、人を医療から追い出すことではありません。医療者が時間と心の余裕を取り戻し、相手の心を考えられるようにすることです。夜の不安に答え、言いにくい本音を受け止めるAIと、患者さんの表情を見つめて支える医療者。その両方がつながることで、思いやりのある温かい医療を取り戻せると私は思っています。

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第9回 · 2026年9月17日(木)

医療AIを、診断格差をなくす力に | 地域や専門性の差を超える、これからの医療支援

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村 祐輔さま / なかむら・ゆうすけ

大規模な医療データベースとAIは、診断を支援するだけでなく、医療者の教育にも活用できます。私は、その先に地域による医療格差を縮める可能性があると考えています。

離島や僻地など、医療資源や専門医が限られた地域であっても、AIの支援があれば、専門家に近い情報を得られるようになります。例えば乳がんについて、病気の説明や治療法、さまざまな選択肢を患者さんに伝えるには、一時間以上かかることもあります。治療法は変化するため、情報を絶えず更新しなければなりませんが、適切に更新された情報を乳がんの専門医がいない病院の医師も利用できれば、専門医と同等の知識を即座に得ることができます。

画像診断でもAIの活用が進んでいます。乳がんの診断に用いるマンモグラフィーでは、画像に異常があるかどうかを読み取る必要があります。白人とアジア人では乳腺の密度が異なるため、海外で開発されたAIが日本人にも適用できるかを、がん研有明病院で検証しました。日本では二人の専門医が画像を読むことになっていますが、二人の人間が読む場合と、専門医一人とAIが読む場合を比較すると、同じレベルの正確さで判定できるようになってきています。

心電図についても、AIは専門医に近いレベルで読み取り、どのような不整脈なのかを判定できるようになっています。もちろん、AIが常に正しく、百パーセントの精度で診断できるわけではありません。しかし、人間の専門医同士でも判断が異なることはあります。少なくともAIは、人間と同等、場合によってはそれ以上の精度で診断を支援でき、特に経験の浅い医療者が単独で読むよりも高い精度を期待できます。同じ、あるいは似た機器を利用できる環境なら、AIを補助に用いることで、地域を問わず同じ質に近い診断を受けられるようになるはずです。

一方で、AIが誤った場合に誰が責任を負うのかという議論は続いています。現在の日本では、法的な観点からも、最終的な責任は人間が負わなければなりません。その前提を理解したうえでAIを使う必要があります。それでも私は、AIによって診断ミスを格段に減らせると考えています。AIを使うか使わないかではなく、医療の質を高め、診断格差を縮めるために、どのように使うのかを考える段階に来ています。

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第10回 · 2026年9月18日(金)

AIの隣で、医師は何を学ぶのか | 変わる医療環境に向き合う、医学教育の未来

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村 祐輔さま / なかむら・ゆうすけ

医療に関わる人材が足りているかを考えるとき、医師の人数だけを見ても実態は捉えられません。働き方改革によって勤務時間が限られる一方、医療者が扱う知識も仕事量も増え、患者さんに説明すべき内容も格段に多くなっています。人数の増減だけではなく、仕事の内容や負担の変化を踏まえて議論する必要がありますが、日本ではその前提が十分に整っていません。

地域による格差や診療科の偏在も生じています。医師を目指す人たちは、これからどの分野の仕事が重要になり、どの仕事が失われる可能性があるのかを敏感に見ています。生成AIが専門家に近いヒントを迅速に与えるようになれば、幅広い知識を持つことだけで評価されてきた医師の役割も変わるかもしれません。AIの普及によって診療科の偏在が減るのか、それとも別の偏りが生まれるのかを考えていかなければなりません。

日本の医療では、同じ処置であれば、長年の経験を持つ医師でも一年目の研修医でも診療報酬は同じです。こうした医療のあり方そのものも、生成AIの導入によって大きく変わる可能性があります。熟練した専門家でなければ診断できなかった病気は、次第に限られてくるでしょう。画像診断については、将来仕事がなくなるのではないかと言われるほど、AIの影響が意識されています。一方、私の知人からは、最近は外科を選ぶ人が増えていると聞きます。卓越した手技は、少なくともしばらくはAIに代替されにくいと考えられているからでしょう。

このように医療環境が変わるなら、医学教育も変わらなければなりません。これまでの医学教育では、知識を身につけることが重視されてきました。しかし、知識をAIが提供する時代に、医師は何を学ぶべきなのでしょうか。私は最近、これから重要になるのは、愛と思いやりを持つことのできる医師だと話しています。

これまで医学教育の場では、人間力を高めるための訓練が十分に取り上げられてきませんでした。今こそ、そのための教育を考える必要があります。ただし、人間力を教えられる指導者がどれだけいるのかという難しい問題もあります。時代によって求められる人材は変わるのに、日本の教育は、その変化に十分対応しきれていません。これは医学だけの課題ではなく、さまざまな分野で起こり得ることです。AIに何を任せるかを考えるだけでなく、AIの隣に立つ人間が何を磨くのか。その教育的な課題を、いま社会全体で考える必要があります。