第6回 · 2026年9月14日(月)
日本の医療データが、AIを育てる | 均一な医療と大規模データベース構築の必要性
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長中村 祐輔さま / なかむら・ゆうすけ
生成AIは、情報の質が高く、量が多いほど賢くなります。AIの基盤となる開発技術で日本が米国や中国に勝つことは、容易ではないと私は考えています。では、日本はどこに可能性を見いだすべきでしょうか。その一つが医療です。
私は米国で通算11年間暮らしましたが、米国では所得によって受けられる医療の質に大きな格差があります。一方、日本には保険制度があり、全国どこでもかなり均質な医療を受けられます。その診療情報を適切に集めれば、質の高い大規模な医療データベースを構築できるはずです。これを生成AIに活用することで、質の高い医療AIを生み出し、医療の分野で日本を発展させるという発想が必要です。
大規模なデータベースがあれば、病名の候補を診断のヒントとして示すだけでなく、どの薬を、どの段階で使うべきかを考える助けにもなります。同じ抗がん剤でも、最初に使う場合と三番目に使う場合とでは、治療効果が異なります。現在はある程度決まった順番で使われていますが、データを蓄積して分析すれば、この薬はもっと早い段階で使ったほうがよい、といったことも見えてくるでしょう。
免疫療法の一種である免疫チェックポイント阻害剤は、その例です。当初は治療の後半でなければ使えませんでした。しかし、抗がん剤を重ねて患者さんの免疫力が弱まってから免疫を高めようとするより、免疫が正常に保たれている早い段階で使うほうが、科学的には合理的です。実際、次第に早い段階で使われるようになっています。
大腸がんでも、遺伝子に傷がつきやすいことによって起こる特定のタイプでは、薬によってがんが消え、手術をしなくてもよい可能性を示すデータが報告されています。がんの種類や治療の組み合わせによっては、手術をせずに治せる時代になりつつあります。
がんは総じて、塊が小さいほど治る確率が高くなります。早く見つけることに加え、どの薬を、どの段階で使うかが極めて重要です。しかし現在、日本国内には、その判断に必要な情報が十分に集約されていません。大阪国際がんセンターで進めているような取り組みをほかの病院にも広げ、さらに大きなデータベースにできれば、患者さんごとに何が最適なのかという答えを得られるようになると思います。
国内の労働人口が減るなか、病気を早く見つけ、早く治すことは、働く人口を確保することにもつながります。医療データを社会全体の資産として集め、どのような形で患者さんに還元するのか。いまこそ、その仕組みを大きな視点で考える時期に来ています。