理事長小田卓さま
ー Q. ご沿革、法人名の由来を教えていただけますか。
A. 平成16年の8月に法人設立、施設は平成17年10月1日に開園しました。創業理事長は、九州建設株式会社の元三代目社長です。
九州建設株式会社のマークが青いクマをイメージしています。「諦めない、怒らない、威張らない、腐らない、負けない。」という言葉をかけてもいるのですが、クマが日本の哺乳類の中でも強いイメージであり、強くたくましい法人に育ってほしいという思いがまず創業理事長にありました。青というのは青年とか若々しいという意味合いもあり、九州建設ではもともと青いクマをモチーフにして作られています。
白熊会におけるクマに対するイメージは変わりません。自然保護等の象徴的な意味合いもあります。白寿など長寿を意味し高齢者の白髪をイメージする部分もあります。様々な意味合いを乗せて、九州建設が青であれば、こちらは白いクマで白熊会となりました。
創業理事長の奥様がアルツハイマー病になられたこともあり、また、社会的に何かできることはないかと創業理事長が考えられ、創業家の寄附金により現在の白熊会は設立されました。創業当初は創業理事長の奥様も入所されたのですが、当初は施設でターミナルケアができず、最後は理事長が自宅で奥様を看取られたのです。創業理事長のお人柄、想いを少しでも継いでいきたいと思っております。
ー Q. 介護の分野に関わることになられた経緯について教えてください。
A. 創業理事長は実業家であり、社会福祉法人の設立にあたり、経理出身、お金まわりの経験がある人を入れることは絶対条件だということで、九州建設から私が選出された。ということを随分後になってから聞きました。私もずっと経理畑というわけではなく、入社して総務、財務、経理、営業本部、出向前は営業部と渡り歩いていたので経理からも離れていました。ですので経理の記憶をまた呼び起こすところからスタートしました。営利法人、非営利法人のそもそものスタートの作りが違うので、施設の設立にあたり、最初は海に投げ出されたような絶望的な気持ちになりました。ただ、たまたまなのですが、大学生の時の卒業論文で、「生存権」をテーマにしていたのです。当時より、こういうテーマに全く興味がないということはなかったです。しかし、まさか本当にこんなことになるとは思ってもみませんでした。
ー Q. 小田さまが、九州建設からただ1人選ばれた理由について教えてください。
A. 創業理事長からは、私が経理畑出身の人間だから、ということしか聞かないまま、昨年亡くなられてしまいました。投げ出さないということや、愛社精神といったいくつかの条件はあったと専務には伝えていたようです。
社会福祉法人の出向から九州建設に戻ってから、3ヶ月後ぐらいに社会福祉法人で職員の一斉退職があったのです。出向から戻った私にも九州建設宛に社会福祉法人職員から電話や手紙が来たり、訴えを聞く機会もありました。常勤の役員の方にお伝えするなどしましたが、ただもう出向から戻っている身なので、なかなか信じてもらえないといったこともありました。それからおよそ2年後に、創業理事長より、私に白熊会へ転籍して欲しいと告げられました。本当に私でいいのかと思い、又、九州建設が大好きでしたので、かなり葛藤もありましたが、敬愛し、尊敬する創業理事長でもありましたので、私でよければと考え、行こうと決めました。実際の転籍は、出向から戻って3年後です。
ー Q. 法人の地域での存在価値や特徴、魅力を教えてください。
A. 私は今年6月26日付けで新理事長に就任したばかりです。今回理事長に就任させていただいて同時に施設長も変わりました。施設長は管理栄養士出身なのですが、これは少し珍しいです。施設長はまさに子育て真っ盛り。保育園と小学生なので、なかなか勇気が必要だったと思うのですが、私は彼女しかいないと思いました。
法人は今まさに大改革に入っています。職員にもまさに発信を始めているところです。所信表明という形で様々なテーマで伝えています。私にはついていけないという声があがるということは覚悟はしている。ということも書いています。ただ、ごまかしながらやっていくというのはお互いのためにもならないですし、本気でこういう法人を作りたい、こういう施設を作りたいと目指すのであれば、やはり真っ正面から向き合わないと。と思っていました。
どういった経済情勢になっても、国の制度が多少変わってもぐらつくことのない経営をしなければならないということは常に頭に置きながらやっています。所信表明の最後は、心の持ち方といった、心のことに触れさせていただこうと思っています。そこを重視してもう1度サービス業の原点に立ち返ってやっていきたいと思っております。
施設には、しろくまホールというものがあります。コロナ前までは、音楽のコンサートが開かれたりしていました。これも創業理事長の人脈のご縁が非常に大きいです。また、地域の公民館のような開かれた地域交流の場となっていて、幼児の方や高齢の方の体操教室などに何団体も使っていただいていました。コロナ禍で、いつからホールの使用はできるのかというお問い合わせもいただいており、この8月より少しずつ元に戻して行こうと思っています。
ー Q. お食事について、ニュークックチル調理法を導入したという記事を拝見しました。どのような調理法なのか教えていただけますか。
A. 提供するものを2日前に作って急速冷凍をかけます。そのため、調理したものをすぐに出すというバタバタがなくなるという利点があります。急速冷凍という過程を入れることによって衛生面に関しての利点もあります。導入の理由は人件費の高騰と業務委託していた厨房職員の高齢化にありました。一番の理由は、働く職員のためです。朝早い、人が足りないという厨房の過酷な現場を知っておりましたので、もちろん収支の改革などもあるのですが、やはり働き方の中身が変わるというのは大きいです。
ー Q. 職員の皆様に対する人材育成や採用についての想いを教えてください。
A. 私は他産業から来たため、福祉に関する固定観念がありません。また、一般のお客様目線で物事を見られるというのが、特徴だと思います。私はバブル崩壊後に社会人をスタートし、支社の営業部長としてリーマンショックも経験しました。
時代や制度の波があったときに乗り越えるためには、やはり人です。職員の一致団結があるから乗り越えられるのです。そのために、皆さんに信頼していただかないといけない。とにかく人間性を上げていきたいというアプローチですね。福祉や介護の中身、ケアなどを全面に出すというよりも、もっとこんな生き方、働き方をここで実現する仲間を集めてますという方向性です。ただ誰でも頭数がいればいいということではないので、伝え、発信し、なるべく共感できる考え方の人が集まれるような仕掛け作りをしていきたいと思っています。
ー Q. 社会福祉業界に対しての課題や解決策などに対するお考えを教えてください。
A. 3Kという言葉があります。給与が安い、きつい、汚いというんですかね。業界団体の訴えのおかげで現在介護職は待遇の向上にも繋がりましたが、同時に業界のイメージも悪化しました。何かもう少し他に表現はなかったのかなと思います。福祉ということは、法人さまごとに個性があってもちろん構わないと思いますし、こうでないとダメということも思いません。あくまで選ばれるのはお客様であり、求職者です。これからは、こうあるべきという業界の慣習はちょっと変わっていくのではないのかなと思っています。ですので固定観念に縛られるのはやめようと思っています。むしろイメージを変えたいと思っています。
ー Q. どんな風に変えたいというのはありますでしょうか。
A. ワークライフバランスに力を入れたいと思っています。働き手の公私は両方大事だと思っているんです。プライベートが乱れていても仕事はうまくいきませんし、逆に仕事がダメだったらプライベートもうまくいかなくなることも多々あると思うのです。心をいかに充実させるか。プライベートと仕事というのは切り離せないものだと思っているので、両方を実現できる、充実させられるような仕組みづくりを、経営側がしていかないといけないのかなと思っています。
ただそのためにはやはり働き手が集まらないと何も始まらないので、私はスタートラインを人の在り方に絞りました。今そこから力を入れてやろうとしています。
色々な業界の中から私どもの業界を選んでいただかないといけません。働き手にも選ばれる業界になるためにはどうしたら良いのかということを皆で考えていけたら少しずつ皆さんから目を向けていただけるようになるのではないのかなと思います。
他産業から来たからこそ思うのは、本当に感謝されることが多いサービスだなということを痛感しました。逆に言うと、そこにあぐらをかいたらダメだということを職員には言っています。なぜ今この業界が、単位、加算を処遇改善のために頂けているかというのは、需要があるからいただけているのであって、そうではない産業で安くてでもそれがいいと思って働いている方たちも世の中たくさんおられるんですね。そこも絶対に、分かった上で加算もいただいて欲しいです。今ある環境は当たり前ではなくて、恵まれてると思う。と、職員には伝えていける範囲で伝えていきたいなと思っているんです。皆様お困りになられた結果入所される。誰しも本当の意味での入所を望んでる方はおられないと思うんです。そんな中で入所を選択され、ご利用者さまが笑顔であったりお元気にされてるの見て、ご家族様は「本当にありがとう」とおっしゃってくださるんですね。そこから、してあげてるとかそんな目線にだけは絶対ならないように。また感謝されることも当たり前とは思わないような職員教育をやっていかないと、だんだん気づかないうちにずれて行ってしまうんじゃないのかと思っているんですね。これからいかに職員の質が上がっていくか、成長できていくか。これはおそらくどの産業、どの職業でも同じなのではないかと私は思っています。