sep 07 2021
農業消滅
米国に屈する日本農政の真実
東京大学大学院 農学生命科学研究科 農学国際専攻
鈴木宣弘教授
「80パーセントの国産率の野菜も、実は90パーセントという種の海外依存度を考慮すると、自給率は現状でも8パーセントで、2035年には4パーセントと、信じがたい低水準に陥る可能性がある」と警鐘を鳴らすのは、東京大学大学院 農学生命科学研究科 農学国際専攻 鈴木宣弘教授。
鈴木教授は他にも、「飼料の海外依存度を考慮すると、牛肉、豚肉、鶏卵の自給率は現状でも、それぞれ11パーセント、6パーセント、12パーセントと低い。このままだと、2035年には、それぞれ4パーセント、1パーセント、2パーセントと、信じがたいほど低水準に陥ってしまう」と語っています。
どうしてこんな危機的な状況になってしまっているのでしょうか。理由の一つに「日本の農業政策がアメリカと密接に関わっているから」と鈴木教授は教えてくださいました。「アメリカと日本の関係は、ジャイアンとスネ夫」であり「アメリカに屈するしかない日本の農業政策という構図がある」ことを知ると、日本の農業が危機に陥っている現状がハッキリとわかります。
鈴木教授は、農林水産省の国際部国際企画課で、農産物の国際需給の逼迫問題、そして農産物をめぐる国際交渉に関わった経験から、農産物の国際需給動向の分析や農業政策、とりわけ、農産物貿易自 由化の影響などの貿易政策の評価に関わる研究を主たる研究分野とされています。だから、言葉一つ一つが重い。
「『自由貿易』とは、アメリカや一部企業が『自由』に儲けられる『貿易』と読み換えられる」とは鈴木先生。他にも、日本の農業は、世界で最も過保護であると日本国民に長らく広く刷り込まれてきたが、諸外国と比較して実態はまったくの逆であること、日本では投与が禁止されている乳がん細胞の増殖因子とされているホルモン「エストロゲン」ですが、すでに消費量の70パーセント近くを占める輸入牛肉にはしっかり投与され、スーパーに所狭しと並んでいる現実等々、たっぷりとお話を伺うことができました。
鈴木教授の著書、「農業消滅-農政の失政がまねく国家存亡の危機」(平凡社)、「食の戦争-米国の罠に落ちる日本」(文藝春秋)には、驚くべき真実がいくつも書かれています。ぜひお手にとってお読みいただきたいです。それでは、鈴木先生の歯に衣着せぬ、本音のトーク、ぜひお聴きください!
【書籍紹介】
書籍:「農業消滅-農政の失政がまねく国家存亡の危機」
(発行 平凡社)
徹底した規制緩和で、食料関連の市場規模はこの30年で1・5倍に膨らむ一方、食料自給率は38%まで低下。農家の総収入は13・5兆円から10・5兆円へと減少し、低賃金に、農業従事者の高齢化と慢性的な担い手不足もあいまって、?農業消滅?が現実のものになろうとしている。人口増加による食料需要の増大や気候変動による生産量の減少で、世界的に食料の価格が高騰し、輸出制限が懸念されるなか、日本は食の安全保障を確立することができるのか。農政の実態を明かし、私たちの未来を守るための展望を論じる。
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【スペシャルゲストプロフィール】
鈴木宣弘(すずき・のぶひろ)
1958年三重県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科教授。専門は農業経済学。82年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授を経て2006年より現職。FTA産官学共同研究会委員、食料・農業・農村政策審議会委員、財務省関税・外国為替等審議会委員、経済産業省産業構造審議会委員、コーネル大学客員教授などを歴任。おもな著書に『食の戦争』(文春新書)、『悪夢の食卓』(KADOKAWA)、『農業経済学 第5版』(共著、岩波書店)などがある。