jun 21 2021
小さな農業
農業大国アメリカで広がる「CSA」とは
河北新報 記者
門田一徳さま
アメリカの巨大農場はわずか4%ーー
中学の教科書で学習した、地平線まで広がる広大な農地に、飛行機で農薬を撒き、ブルドーザーで一気に作物を収穫するという、アメリカの大規模農業のイメージを一変させる文章から始まる本書「農業大国アメリカで広がる『小さな農業』進化する産直スタイル『CSA』」(家の光協会)に驚き、著者である、河北新報記者 門田一徳さんをお招きし、お話を伺いました。
キーワードは「CSA(コミュニティ・サポーティッド・アグリカルチャー Community Supported Agriculture)」。日本では「地域支援型農業」や「地域が支える農業」などと訳される、生産者と消費者が業者を通さず直接つながり、継続的に農産物や食材を取引する手法のことです。
門田さんは、約1年間アメリカに渡り、実際に現地をみて回ったというご経験から、CSAの日本語訳は、持続的な食料生産を目指す生産者と、その考えを共有する消費者がつくる「社会」の意味合いが強く「コミュニティー支援型農業」の方がふさわしいと考えられています。
例えば、アメリカ屈指のCSA普及地域であるニューヨークのイサカでは、アメリカのCSA世帯普及率0.4%に対し、12%もの広がりをみせ、地元産食材の年間売上高は2000万ドル(約22億円)にものぼるということです。45の小規模農家がCSAという仕組みを使えば、これだけの規模に成長するという具体例は、日本でも普及してもらいたいと感じるに足る事例だと思いました。
実際、福島県では会津地方のコメ販売業者の「原発事故で『安全』と『安心』の違いを痛感した」という発言から、放射性物質の数値化された「安全」証明よりも、顔の見える付き合いで時間をかけて築いた信頼関係による「安心」の方が、販路を取り戻す時、はるかに役立ったというエピソードを紹介してくれています。まさにCSAの理念と合致するエピソードです。
もちろん、日本ではまだこの言葉自体に馴染みが薄く、農業に携わる人にもあまり知られていないかもしれません。目の前の農作業に追われ、消費者教育もままならない現状があるのもわかります。それでも、持続可能な経営を実現させているアメリカの小さな農業であるCSAの情報は、日本の農業にもきっと役立つと感じずにはいられません。
門田さんにたっぷり語っていただきました。ぜひお聴きいただき、持続ある農業経営形態の一つにCSAという仕組みがあることを知っていただきたいと思います。
【スペシャルゲストプロフィール】
門田一徳(もんでん・かずのり)
河北新報記者。1973年、宮城県大崎市生まれ。明治大学文学部卒。1997年河北新報社入社。青森総局、東京支社、本社報道部などを経て2019年4月から栗原支局。2006年、大崎市の「鳴子の米プロジェクト」の取材でコミュニティー支援型農業(CSA)を知る。東日本大震災後、「東北食べる通信」など被災地のCSAを報道。「日米教育委員会」の2016年度フルブライト・ジャーナリストとして10ヶ月、アメリカ・ニューヨーク州のコーネル大学客員研究員に就き、CSAの先進事例を取材。2017年8月「河北新報」朝刊で7回連載「米国流直売経済」を担当した。