aug 31 2021
細胞治療最前線
「Muse細胞」のもたらす医療革命に迫る
東北大学大学院医学系研究科 細胞組織学分野
出澤真理教授
実用化が進む再生医療。再生医療とはヒトの細胞や組織を用いて、機能不全となった細胞や組織を再生させて、その機能を取り戻す医療のこと。これまで有効な治療法のなかった疾患が治療できるようになることが期待されています。中でも再生医療に「Muse(ミューズ Multilineage-differentiateing Stress Enduring)細胞」を応用することが注目されています。
「Muse細胞」とは、2010年に東北大学の出澤真理(でざわ・まり)教授のグループによって発見された、生体に存在する新しいタイプの多能性幹細胞。骨髄、末梢血、あらゆる臓器の結合組織に存在する、腫瘍化のリスクが非常に低い生体由来の多能性修復幹細胞です。
出所)東北大学ホームページより
「ビルを維持するには、メンテナンス会社が必要。同じように私たちの体にもメンテナンス会社がある。体が一部損傷したとなれば、その損傷した場所の細胞を修復する、または、新しい細胞と置き換える。Muse細胞はメンテナンス会社のように、我々の体を修復するのが仕事」と語るのは、発見者である東北大学大学院医学系研究科、出澤真理教授。
すでに治験も始まっており、たった1回の点滴投与、さらには二重盲検比較試験※1を活用したところ、「70%近くの患者が日常生活自立まで到達。31.8%の方が職場復帰を達成」(治験実施責任医師/東北大学大学院医工学研究科 神経外科先端治療開発学分野・新妻邦泰教授)という驚く結果が得られているというのですから驚きです。
※1
ダブル・ブラインド・テスト(double blind test;DBT)のこと。治験実施に関わるすべての人間が、どんな薬を投与するのか一切知らずに行われる治験方法。
「Muse細胞」元々古代よりトカゲやヤモリなど生物の体中に存在していたよう。トカゲやヤモリは、依然として尾を修復できるから、敵に襲われても尾を切って逃げられます。一方の人間はというと、進化と共に減少、さらに老化によって失われていくため、Muse細胞の活力は他の動物に比べて減退していってしまったよう。
出澤教授の発見は、当然世界でも注目されており、2018年4月にこれまで29人のノーベル賞受賞者が受賞してきたノーベル賞への登竜門と言われる"National Academy of Inventors"も受賞されています。ノーベル賞に最も近い研究者のお一人、出澤教授の「Muse細胞」講義、ぜひお聴きください!
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【スペシャルゲストプロフィール】
出澤真理(でざわ・まり)
1995年、千葉大学大学院医学研究科 博士課程修了。 同年、千葉大学医学部 助手、2000年、横浜市立大学医学部解剖学第一講座講師、2003年、京都大学大学院医学研究科助教授を経て、2008年より東北大学大学院医学系研究科教授。